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第5章-8 おかえり
マスターキーによって開かれたその扉の先は、冷たい鉄と蒸気の世界とは切り離された、温かな光に満ちた**「子供部屋」**であった。
ぬいぐるみ、絵本、使い古された机……。そこは、100年の時を超えて凍結された、誰かの大切な思い出の欠片で埋め尽くされている。ねねが呆然と一歩踏み出したその時、部屋の中央に柔らかな青い光が灯り、一人の男性のホログラムが映し出された。
「……見つかったんだね、ねね」
その穏やかで優しい声。 「狂った科学者」と恐れられていた男――ねねの父、ザザ博士がそこに立っていた。
「突然いなくなってしまった君を、私は狂ったように探し続けた。このエリアG-16の広大な監視体制は、大切なねねを探すために作ったものなんだよ」
ホログラムの父は、切なげに目を細めて語り続ける。
「病に倒れ、君を直接探せなくなった私は、君がいつ帰ってきてもいいように、君を守る『壁』として機械たちを自律進化させることにした。君が寂しくないようにと、誕生日のたびに贈っていたロボットたちも……時を経て、君を守るための騎士『ギアーズ』へと進化していくだろう」
G4の兎も、G8の獅子も、もとは父からの誕生日プレゼントだったのだ。
「そして、このG16『デスティア』……。これは、君に手渡すことのできなかった、16歳の誕生日の贈り物だ。最初はもっと小さくて、可愛らしい友達のような姿だったのだけれどね……どんどん進化が進んでいるみたいだ」
デスサイトの冷徹な殺戮兵器としての姿は、過剰なまでの「父の愛」が100年の時を経て、誰にも娘を傷つけさせないための絶対的な守護者へと変貌した結果であった。
「ねね、エリアG-16のすべてを君に託す。この力は、君が望む未来のために使いなさい。……お誕生日おめでとう、私の愛する娘よ」
光が弾け、ホログラムが消えていく。ねねの頬を、熱い涙が伝った。
「……お父さん。ありがとう」
ねねは、マスターキーを胸に強く抱きしめた。 狂気だと思われていたこの場所は、世界で一番不器用で、一番深い愛情に満ちた「家」だったのだ。
デスサイトの外では、激しい爆発の煙が燻(くゆ)っていた。全力で戦場の機械達を止めていたエイミーに、ギアーズ達と無数の兵の刃が今にも動こうと震えていた、その時。
デスサイトの重厚な装甲がゆっくりと展開し、その中から、桃色の髪をなびかせた少女が姿を現した。
「もう、戦わなくていいよ」
ねねの声が、戦場に響き渡る。 彼女の手の中にあるマスターキーが眩い光を放つと、暴走していたすべての機械たちが一斉に膝を突き、深々と頭を垂れた。犠牲になったと思われたエイミーも、修復プログラムの光に包まれ、ゆっくりと目を開ける。
そこには、これまでにない凛とした表情で、巨大な死神(デスサイト)の肩の上に立つねねの姿があった。背後には、かつての「プレゼント」であったG4やG8、そして数多のギアーズが、彼女を新たな主(マスター)として守るように整列した。
「この力で、覚醒大戦を終わらせる。みんなが笑える世界を、今度は私が守るから」
エリアG-16の全てを従えたねねの、新しい伝説がここから始まる。
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