第3章-1 カタナの帰還と八咫烏

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第3章-1 カタナの帰還と八咫烏

土埃と鉄錆の匂いが混じる風の中、重厚な城門が軋みを上げて開かれた。 帰還したのは、かつて数多の戦場を制した大将軍、怒龍(ドリュウ)。しかしその姿は、いつもの威風堂々たるものとは程遠かった。仲間を庇い、殿(しんがり)を務めた代償は大きく、その巨躯には無数の傷が刻まれ、足取りは鉛のように重い。

「父上!」

城の虎口(出入口)で待ち構えていたのは、鮮やかな紅の装束に身を包んだ娘、紅姫(ベニヒメ)だった。その背後には、漆黒の装束に身を包み、鋭い眼光を放つ集団――黒の集団「八咫烏衆(ヤタガラス)」が整列している。

「……戻ったぞ。少しばかり、派手にやられたわ」

怒龍が苦笑いと共に膝をつきかけると、すかさず紅姫と、傍らに控えていた神楽(カグラ)が駆け寄った。 運び込まれた他の侍や忍者たちも同様に満身創痍であったが、紅姫の指示の下、城内の治療班による迅速な手当てが始まる。神楽もまた、その清浄な霊力を用いて傷ついた戦士たちの痛みを和らげていく。

大広間にて、応急処置を終えた怒龍の前には、八咫烏衆の幹部たちが膝をついていた。 「大将軍、事の顛末をお聞かせ願いたい。あの『ゼレウス』……我らが想定していた以上の力ということか」

八咫烏衆の問いに、怒龍は重く頷いた。 「ああ。奴の力は個の武勇でどうにかなる次元ではない。今のままでは、ゼレアを止めることは出来ぬ。」 広間に重苦しい沈黙が流れる。 「だが、手がないわけではない。奴に対抗するには『カタナ』の力を集結させる必要がある」

「カタナの力を……?」

「そうだ」怒龍は眼光を鋭くし、声を張り上げた。「侍だけではない。陰陽師が使役する式神たち、野に潜む伝承の物の怪(もののけ)たちにも声をかけよ! 種族の垣根を超え、各地の強者(つわもの)どもを集め、最強のカタナの国を作り上げるのだ!」 さらに怒龍は続ける。 「鍛冶屋の準備も忘れるな。強者には折れぬ刀が必要じゃ」

その命を受け、八咫烏衆の戦士たちは一斉に立ち上がった。「御意!」という短く力強い返事と共に、彼らは国の四方へと散り、猛者たちを集めるべく闇夜へと消えていった。

広間が静けさを取り戻すと、それまで黙って聞いていた紅姫が、仁王立ちで怒龍を見下ろした。 「まったく! 父上らしくないのう!」 やんちゃで気の強い彼女の声が響く。 「普段は『豪快』だの『最強』だの言っておるくせに、これほど慎重になるとは。弱気になったか? いよいよこの紅姫様の出番というわけじゃな!」

「うぬぬ……」 怒龍は傷の痛みも忘れ、頭を抱えた。 「その前にだ……『若』は何をしておる。陰陽師達を束ね、式神を操るのは奴の役目じゃろうが」

「ふん! 紅姫も式神じゃ! 若のことは好きじゃが、人間の言うことなど聞かんぞ!」 ふんぞり返る紅姫に、怒龍は大きなため息をついた。 「お前は人と式神の混血種じゃろ。半分は人でもあるし、そもそもワシの娘じゃろが……」

怒龍は呆れ顔で手を振った。 「ええい、理屈はいいから若を探してこい。お前の機動力が必要なんじゃ」

「む……」 紅姫は少し考え込むような素振りを見せたが、すぐにニヤリと不敵な笑みを浮かべた。 「ならば、褒美は甘いものを山ほど用意しておくのだぞ!」

「分かった、分かったから早くいけ」

「約束じゃぞ!」 紅姫はそう言い残すと、軽やかに宙を舞い、若を探すために空へと飛び立った。その背を見送りながら、怒龍は「ったく、誰に似たのやら」と呟き、再び来る決戦に向けて静かに闘志を燃やすのだった。


【八咫烏衆(ヤタガラスシュウ)】
カタナの国の大将軍怒龍の右腕。彼ら一人一人が巨大な戦力を持ち、危険が伴う特殊任務を任せられる。八咫烏衆に任命される者は覚醒の力を使える者のみ。ゼレウスやエリアG-16との抗争で命を失う者も多いが、その中で長い間戦い続ける幹部と呼ばれる存在の戦闘力は計り知れない。

元々は人を超える力を持つ異端の者として忌み嫌われていた村の者達だった。しかし怒龍はその者達を救い国を守る守護者としての役割を与えた。

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