第5章-7 最終試練 ねねとネネ

・前の話
・次の話

第5章-7 最終試練 ねねとネネ

デスサイト内部。冷たい金属の壁と無数の配線が這う巨大な機械の深淵で、最後の試練がねねを待ち受けていた。

仄暗い空間の中央、不意に光の粒子が集まり、ホログラムのような少女の姿が浮かび上がる。その姿は、ねねと瓜二つだった。

「ヨウコソ、私ハ『ネネ』。巨大ナ力ノ塊。マスター以外ガ触レレバ、全テ消滅スル」

機械的な無機質な声。しかし、ねねはその言葉に怯むことなく前へ進み出た。ホログラムの少女『ネネ』もまた、ねねへと歩み寄る。お互いに歩を止めることなく、二人は真っ直ぐに接近していった。

「私はねね。正直、自分がマスターに相応しいかなんて解らない。100年前の記憶だって、ほとんど思い出せないしね」 ねねは静かに、しかし力強く語りかける。 「それでも、あの日の温もりだけは忘れていない。それを取り戻したいの。そのために、私はここへ来たわ」

その言葉に応じるように、『ネネ』の表情が変貌する。

「私ハネネ。コノ地ヲ統ベル者トシテ作ラレ、100年守リ続ケタ」 「あなたは……なぜ私の姿を真似するの?」

ねねの問いかけに、『ネネ』から微かな感情の揺らぎが漏れた。

「真似? 私コソガ本物ダ。永遠ノ様ナ時間ヲ戦イ続ケタ……私コソガ、ネネダ!」 「どういうこと? あなたは真似しているのではなく、私に似た何か……?」 「ドチラガ本物カ……解ラセル。アナタヲ消滅サセル!」

殺意を剥き出しにした『ネネ』が襲い掛かる。その瞬間、周囲の空間が歪み、世界は一面の荒れ果てた荒野へと姿を変えた。 荒野の中心で、ねねと『ネネ』は激しくぶつかり合う。エリアG-16の膨大な力を纏った『ネネ』の猛攻が、息つく暇もなくねねを襲う。ねねもまた、自身の持つ力を限界まで引き出し、フルパワーで迎え撃った。

激しい打撃と打撃が交錯し、拳が触れ合うたびに、ねねの脳内に直接『記憶』が流れ込んできた。

それは、機械である『ネネ』が、たった一人で孤独に100年の間、この地を守り続けた記憶だった。 人を完璧に再現しようとしたプログラム。彼女は何のために自分が生成されたのかも解らないまま、途方もない時間をかけて自己進化を続けてきた。そしてその結果、彼女は「心」を持ち始めてしまったのだ。 それは、単なる機械にとっては致命的な欠点(バグ)でしかなかった。心を持ってしまったが故に感じる、凍りつくような寂しさと孤独。その切実な感情が、ねねの胸を締め付けるように流れ込んでくる。

一方で、ねねの中にある人としての「温かい記憶」もまた、『ネネ』の中へと流れ込んでいた。

ずっと求めていた、しかし決して手に入らなかった温もりの記憶に触れた瞬間、『ネネ』の動きがピタリと止まった。

彼女の目から、機械には流せるはずのない大粒の涙が零れ落ちる。 既に彼女はただの機械などではなかった。進化の果てに、彼女は真の意味で「人」になっていたのだ。

戦意を喪失し、その場に崩れ落ちてうずくまる『ネネ』。ねねはゆっくりと歩み寄り、その小さな背中にそっと寄り添った。

「あなたは、もう一人じゃない」 ねねは優しく抱きしめる。 「私の中においで」

二人が寄り添い、重なり合った瞬間、『ネネ』の体は眩い光の粒子となって輝き、ねねの体へと溶け込むように消えていった。

孤独に100年戦い続けた『ネネ』は語り掛ける「アリガトウ…」

優しく温かい光が収まり、ねねが静かに目を開けると、そこは荒野ではなく、元の冷たいデスサイトの内部だった。 『ネネ』の全てを受け入れ、取り込んだねねの体には、かつてないほどの力が満ち溢れていた。彼女はエリアG-16の膨大な力を得て、新たな姿へと進化を遂げていたのだ。

「ずっと一緒だよ…行こう!」

進化したねねの目の前に重厚な鉄の扉が立ち塞がっている。 ねねは静かにマスターキーを取り出し、その扉の鍵穴へと真っ直ぐに差し込んだ。

鍵の複雑な形状と、ねね自身の生体情報が鍵穴を通じてシステムへと流れ込んでいく。 一瞬の静寂の後、マスターキーが静かに光を放った。それは、待ち望んだマスター認証が成功したことを告げる光だった。

「カチャッ……ガガガガ……」

重々しい機械音を響かせながら、100年の時を経て、厚い鉄の扉がゆっくりと開いていった

・前の話
・次の話