第6章-3 戦いの裏側

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第6章-3 戦いの裏側

アラクネを退けたアカリとハクの活躍は、一時的に敵を退けた。しかし、現実は非情である。事態は彼らの想像を超えるスピードで深刻さを増していた。

ネオライズの外縁部では局地的な戦闘が頻発し、絶え間ない爆音が重く空を震わせている。アメルダ帝国の侵攻は明らかにこれまでとは違う狂気を帯びており、その暴走は激化の一途を辿っていた。

「急げ! こっちに重傷者よ!」
「止血剤が足りない、早く持ってきて!」

野戦病院と化した学園の廊下には、怒号が飛び交い、血と消毒液の入り混じった生々しい匂いが立ち込めていた。次々と前線から運び込まれる傷ついた仲間たち。苦痛に歪む顔、包帯に滲む深い赤。ギリギリの人数で持ち堪えていた防衛線の維持は、すでに限界に達しようとしていた。

「1週間後のオリジン襲来……? 冗談じゃないわ。すでにギリギリよ!でもね私が全員回復させちゃうから!!」
救護班のもえが皆を励ます。彼女の明るさに戦場となったネオライズは支えられている。

先生のアレッサ・学園長達や戦闘部隊のウルフも時間のある限り救護の一員として皆を介護する。皆が一致団結していた。

だが、生徒たちの心に残る恐怖は、単なるこの戦争だけが原因ではない。彼らが何より恐れ、そして同時に、魂を焦がすほど深く憎悪しているのは――他でもない、アメルダ帝国の帝王・オリジンその人であった。

アカリを含むネオライズの民は、元を辿ればアメルダ帝国の国民である。かつては彼らもまた、帝国の土地で家族と共に平穏な暮らしを営んでいたのだ。

しかし数年前、その日常は圧倒的な暴力によって消し炭となった。
オリジンは「己の力を試す」という、ただそれだけの身勝手な理由で、自国の領土の一部を標的に定め、徹底的に焼き払ったのである。空を覆う絶望の閃光、燃え盛る故郷、一瞬にして瓦礫の下敷きとなった家々。逃げ惑う人々の悲鳴すらも、冷酷な紅蓮の炎が全て呑み込んでいった。

アカリの脳裏には、今も鮮明に焼き付いている。炎の中で力なく冷たくなっていった、愛する家族の手の感触が。
あの凄惨な地獄を生き延びた棄民たちが、絶望の底から這い上がり、安住の地を求めて流れ着き、血を吐くような思いでゼロから築き上げたのが、この独立国「ネオライズ」だった。

だからこそ、彼らは引くわけにはいかない。これは単なる領土防衛ではないのだ。
「……絶対に、あいつだけは許さない」
野戦病院の壁に背を預け、アカリは血が滲むほど強く拳を握りしめた。

友人のウルフがそっと声をかける「アカリ…お前は皆の希望だ。俺たちは戦う役目だが復讐の狂気に飲まれてはいけない。」

アカリの脳裏に失った家族の顔がよぎる「…ありがとう、でも私はそんなに大人じゃないわ…私は…いなくなった人の仇をとりたい。それに皆も守らなきゃ。ウルフ…あなたもそうでしょ?」
ウルフも考え込む。

そしてゆっくり話す「解るよ。でもアカリ、お前を待っている仲間達もたくさんいる。もっとみんなを頼ってくれ。」
子供のころから1人で路上生活をして生きてきたウルフにとって、この学園のアカリやハクやアレッサは唯一の心が許せる仲間だった。その仲間を守りたい…彼の不器用な気持ちが言葉に出た瞬間だった。

奪われた過去への鎮魂と、理不尽に命を散らされた家族のための復讐。そして、もう誰も仲間を失いたくないと思う気持ちが混ざり合う。ネオライズの戦士たちは明日を切り開くため武器を取り戦い続けていた。

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