
第6章-4 桜花の試練

ネオライズ学園の訓練場。
白く磨かれた床に、幾何学的な光のラインが走るその空間で、アカリとアレッサ、そして転校生の桜花(おうか)が向かい合っていた。

空気は静かだが、どこか張り詰めている。
アカリは桜花の横に立ち、ふと横目で彼女を見た。
「ネオライズは、いつも帝国からの奇襲に備えていて、私達はいつも警戒しなくちゃいけないの。」
「あなたはカタナの国から来た。目的は何。」
桜花は、ほんの一瞬だけ目を閉じた。

――凍えるような夜。
名も知らぬ路地裏。
捨てられ、意識が遠のいていく幼い頃の桜花。
鬼の血を引く子供。誰からも忌み嫌われていた。

その闇の中で、差し伸べられた手。
強く、大きく、そして温かい手。

怒龍。カタナの国の王。
あの時、自分を拾い上げてくれた男。
そして――実の娘の紅姫と共に、家族として迎え入れてくれた人。

(……私は、あの時に救われた)
いつしか私の角は消え、瞳の色は安らぎを得て変わった。
その瞳を開く。

迷いはなかった。
「目的は、世界で暴走する国々――アメルダやゼレウスを止めることです」
一拍、静寂が落ちる。
「カタナの王である怒龍様から、そのためにネオライズに協力を仰げと」
その名には、揺るぎない敬意と――深い愛情が込められていた。
アレッサが一歩前に出る。

「カタナと戦うことになったら、どうしますか?」
問いは鋭い。
桜花はすぐには答えなかった。
脳裏に浮かぶのは、優しくも厳しい父の背中。
隣で笑っていた紅姫の姿。

(あの家で与えられたものを、私は忘れない)
やがて、静かに口を開く。
「難しい質問です」
「怒龍様からは……一度国を移ったなら、新たな国のために尽くせと」
その言葉は“教え”ではなく、“託された意思”だった。
アカリはさらに踏み込む。
「怒龍の意思は解ったわ。あなたの意思はどうしたいの?」

桜花の瞳がわずかに揺れる。
だが、それは迷いではない。
心の奥にある“核”に触れた証だった。
「世界の争いを止めるという“信”は、受け継いでいます」
静かな声。だが確かな重み。
「私は、既にネオライズの民…こちらの戦士です」
一瞬だけ間を置き――
「……ですが、父やカタナの皆と戦いたくありません!」
その言葉には、父への深い愛情と覚悟が込められていた。

アカリはその眼差しを見て、何かを感じ取る。
ただの転校生ではない。
背負っているものの重さを。
そして、ふっと笑った。
「……良かった。家族や仲間を大切にすること…それがネオライズの唯一の掟。桜花はもう私たちの仲間よ!」

明るい笑顔で手を差し出す。桜花は小さく頷き、その手を握った。
その手は温かく、確かな“今”を感じさせた。
アレッサが淡々と告げる。
「これで桜花さんは正式な仲間ですね。今日は“機神”と呼ばれる、私たちの主戦力の模擬戦を行う日です」
「桜花さんも、連携のために見ておいてください」

その時――
「お、もう始まってるのか」
遅れてハクが駆け込んできた。
