第7章-7 新たな旅

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第7章-7 新たな旅

四つの石を抱え、エイミーたちは大樹の根元へ戻ってきた。そこには、巨大な猫神の白い体に包まれるようにして眠るアカリの姿があった。

柔らかな毛並みと緑の結界が彼女を守っていたが、その体から漏れる黒い霧は、出発前よりも濃くなっていた。

「アカリ!」

ハクが駆け寄る。アカリの顔は青白く、呼吸も浅い。黒い呪いは彼女の腕から首元まで広がり、まるで内側から何かが目覚めようとしているようだった。

「間に合ったのです。でも、急ぐのです」
エイミーの声には焦りがあった。ハクは四つの石を両手で差し出す。

「アカリ、これで直そう!」ハクが元気付ける。

猫神は静かに目を開き、四つの神聖な石を受け取った。翠の風の石、輝く水龍の石、大地の熊の石、そして冥海の赤い石。それぞれが呼び合うように光り始める。エイミーはアカリを抱きかかえ、緑に輝くオーラで包み込んだ。

アカリの体がゆっくりと宙に浮いた。四つの石が彼女の周囲を巡り、森全体に光の輪が広がる。エイミーが舞うように手を動かすと、猫神の巨大な体もそれに合わせて揺れた。白い毛並みから神聖なオーラがあふれ、大樹の枝葉がまばゆく輝く。

「気を付けるのです。呪いが現れるのです」

その瞬間、森の色が消えた。空も大地も真っ黒な世界へ変わる。赤い雨が降っている。そこに立っていたのは、巨大な黒い魔女だった。長い髪は夜そのもののように広がり、瞳の奥には底のない怒りが燃えていた。この世のものとは思えない異様な力が、空間を押しつぶすように満ちていく。

「え、な、、なんだ!?」ハクは目の前の魔女の存在に気付くと数歩下がり間合いを取った。
エイミーは静かに言った。
「これが覚醒の力の本体。アカリの復讐心に宿った神なのです。すぐに目覚めます。」

ハクは息を呑んだ。「戦う…のか?いや違う……相手の心を見なければ」
エイミーは応える。「そう、対話するのです。私たちと四獣の石の力で」

その時、黒い魔女の魔力が急激に膨れ上がった。閉じていた瞳が開く。
「……我を顕現させたのは貴様らか」

空が裂けた。

「死ね」

巨大な黒い雷が、森を貫くように降り注いだ。ハクたちは反射的に身構える。だが、雷が届く直前、猫神の結界が四つの石と共鳴し、光の壁となって立ち上がった。雷は結界に触れた瞬間、無数の光となって弾け散る。

しかし、その衝撃はあまりにも強かった。結界の表面が激しく歪み、細いひびが走る。是音は鋭く空を見上げた。「長くは持たないようだ……」

黒い魔女は冷たく笑った。「神域結界か。すぐに破壊してやろう」
再び雷が降り注ぐ。結界が揺れ、空気が震える。破られた瞬間、全員が呑み込まれる。誰もがそれを感じていた。

その重い空気の中で、桜花が一歩前に出た。
「待って!」
黒い魔女の瞳が、桜花を見下ろす。桜花は震えながらも、声を張った。
「アカリは、そんな破壊の力を求めていない! ただ……ただ仲間を守りたいだけなの!」

魔女の表情がわずかに歪む。
「貴様に、あの娘の何が解る。家族も仲間も奪われた怒り。届かぬ叫び。許せぬ憎しみ。我と共鳴できる稀なる器。神として応えてやろうと言うのだ」

雷は止まらない。猫神の結界に、さらに大きなひびが入る。エイミーはアカリを守るため、必死にオーラを注ぎ続けていた。

その時、アカリの周囲を巡る四つの石が、強く輝き静かに闇を照らした。

それはフォレスタの記憶だった。木漏れ日の中で笑う獣たち。澄んだ泉の音。草原を駆ける風。海に還っていく魂たち。

そして、幼いころのアカリが大切にしていた、温かな記憶。誰かに手を引かれたこと。誰かと笑ったこと。守りたいと思ったこと。失った怒りの奥に、まだ消えずに残っていた優しさ。

「グオオオオォ! 何をした!」黒い魔女が苦しげに呻いた。闇の世界に、光の亀裂が走る。

アカリのまぶたが震え、ゆっくりと目を開いた。
「……何か、暖かな記憶が……流れ込んできたの」

アカリは宙から静かに降り立った。黒い呪いはまだ消えていない。けれど、その瞳には暗い怒りだけではない、確かな意思の光が宿っていた。

「なんだか、、体が軽い、、、私、大切にしていたものを思い出したわ」

黒い魔女がアカリを見下ろす。アカリもまた、その巨大な存在をまっすぐ見上げた。
「これが、私に宿った神様……」

アカリは静かに息を吸った。
「私はオリジンを許さない。今でも憎んでる。でも、仲間がいるから。大切だから。もう暴走はしないわ」アカリは黒い魔女へ手を伸ばした。
「一緒に戦いましょ。壊すためじゃない。私が、私の意思で戦うために」

黒い魔女はしばらく黙っていた。やがて、闇の中で低く笑う。
「娘よ……いつか完全な黒き魂に染め尽くしてくれる」

そう言い残し、魔女の姿は黒い霧となって消えていった。

次の瞬間、闇の森は砕け、美しい光が一気にあふれ出した。大樹の葉が輝き、空から柔らかな日差しが降り注ぐ。猫神とエイミーは力を使い果たし、その場に膝をついた。

「エイミー!」
ハクが駆け寄ると、エイミーはフラフラしながらは笑った。
そして皆は太陽の光の温もりを祝福していた。

「みんな、ありがとう! すっごい久しぶりに、光を浴びた気分!」
アカリが深々と頭を下げ前を向いた瞬間、桜花が飛びついた。
「アカリ!」

「ちょ、ちょっと桜花、苦しいって!」
二人の声に、是音も静かに微笑む。ハクは少し照れくさそうに立っていた。エイミーがそんなハクの背中を軽く押す。ハクは一歩前に出て小さな声で言った。
「……おかえり」

アカリは少し驚いたあと、明るく笑った。
「ただいま!」

柔らかな風が吹いた。森の花びらが舞い上がり、猫神の白い毛並みが光を受けて揺れる。長かったフォレスタでの試練が、ようやく終わったのだ。
猫神も静かに喉を鳴らし、まるで祝福するように大きな尻尾を揺らした。

やがて、ハクたちは旅立ちの準備を始めた。フォレスタの森の仲間たちが集まり、別れを惜しむように見送ってくれる。アカリは遠くの空を見上げた。
「これから、最終決戦……各国がゼレウスに集結するのね」

エイミーの表情が真剣になる。
「オリジンだけではないのです。覚醒大戦の元凶、ゼレア女王を止めなければならないのです」

ハクは拳を握った。フォレスタで学んだことが、胸の奥に残っている。力だけでは届かないものがある。けれど、守りたいものがあるなら、進まなければならない。
「行こう!」彼らは新たな旅へ歩き出した。

フォレスタ編–完

次回、物語はゼレウス編へ突入!
各国が集結し最終決戦へ。

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